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日本とアメリカについて思うことなど

カルトに侵食される日本のネット界

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 新型コロナ、環境問題、社会の分断や格差の問題など、不安定な状態が続きそうな今、日本のネット界でカルトや新興宗教の勢力が勢いを増している。Buzzfeed Japanの記事『日本でも大量拡散したバイデン氏の「不正」めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か』を読んだ人もいるかもしれないが、デマのネタ元を探ってみたところ、Breitbart News、New York Post、The Epoch Times(大紀元時報)、世界日報に行き着くことが多い。

 

拡散されるカルト思想のソース元

 その中で一番まともなのは、New York Postだろう。たまにNew York Timesや、The New Yorkerなどと混同してしまっている人もいるが、New York Timesが新聞なのに対し、New York Postはいわゆるタブロイド誌の類である。日本でいうところの、フライデーやスポーツ紙のような立ち位置で、老舗ではあるが、社会人がまともなソース元として扱うようなペーパーではない。

 次いで、Breitbart News(ブライトバード)。Breitbartは極右派のニュースネットワークとしてかなりの影響力を持っている。2016年の大統領選ではトランプ氏に多額の献金をし、同メディアの元チェアマンだったスティーブ・バノン氏がトランプ陣営のチーフストラテジストに回るなど、熱烈にサポートしたことも知られている。
 単に右翼・保守であるだけではなく、非科学的、中枢がネオナチの白人至上主義者、陰謀論のデマ拡散機(オバマ大統領がイスラム過激派のスパイである、カリフォルニア州の大火災は移民による放火だ、など)として知られている。読者にはいわゆるオルタナ右翼が多く、キリスト教原理主義者だったり、ノアの方舟は実話だ、恐竜は存在しなかった、進化論は嘘だとする層にも支持されている。

 そして今回の大統領選のデマ元として新によく目にしたのがThe Epoch Times(大紀元時報)だ。ニューヨークを拠点にしており、多国語で発信されていることから一見まともな新聞に見えるが、この新聞は法輪功という新興宗教の信者が中枢にいることが知られている。反共産主義、アンチフェミ、反グローバリズム等の立場が保守派と一致することから読者を増やしている。反共産自体は問題無いが、共産を"邪霊"と称し、神や悪魔といったスピリチュアルな言説と政治を混同し、論理的な議論を難しくしている(参照:悪魔が世界を統治している)。

 世界日報統一教と繋がりのあるメディアだとされている。ワシントン・ポストとよく混同されてしまうワシントン・タイムズも、統一教とつながりがあるとされている。これらのメディアも、反共産のような右派に寄り添う記事を出しながら、時々進化論を否定するインテリジェント・デザインなどの宗教的思想を記事に盛り込んでいる。

 これらのメディアの特徴は、「大手のメディアは真実を隠している!」「日本では報じられない真実」というのが論調で、デマでも堂々と真実のように伝えることだ。彼等の目的は「何が本当か分からない…。」という混乱状態を一瞬でも作ることで、人々が陰謀論にハマりやすい状態をつくり、人々の意識に宗教的思想を植えやすくすることだ。

保守とカルトの相性

 厄介なのは、本来であれば新興宗教団体の資金源にされることに反発すべき保守派が、上記のような"ソース元"のデマも利用して、政治的立場を強めようとしていることだ。

 ネトウヨと呼ばれる人や宗教的思想に完全に浸っている人は、実社会では少数かもしれない。しかし、普通の保守派の人は沢山いる。フェミニズムグローバル化、環境問題への取り組みなど、保守派に逆風が吹いている中、温暖化は嘘だよ、LGBTQは神様が望んだ正しいヒトの姿じゃないよ、などという宗教思想に右派は取り込まれやすい。

 元オウム真理教信者の上祐氏がTwitterで「米国の大統領選挙の混乱・対立を見て、オウム真理教を思い出した。」と発言したことが話題になった。オウム真理教の信者も、日本の全人口からしたら極僅かだったが、政界進出を目論み、社会現象、そして悲劇が起きてしまった。

カルト政権を脱したアメリカと、実態が掴めない日本

 アメリカは一先ずバイデン氏率いる民主党が勝利し、ポピュリズム・カルト臭の強かったトランプ政権から交代する形となった。政権交代で分断やQアノン、オルタナ右翼のようなカルトの動きがいきなり解消される訳ではないし、左は左で、アンティーファの問題もある。

 しかし、良くも悪くも特徴のないバイデン氏を添えた中道寄りの民主党政権になったことで、アメリカが一旦体勢を整え、問題に取り組んで行けるだけの体力がまだあることを示したと思う。

 一方日本では同じ政党がずっと政権を握っているし、他の政党もアメリカのハッキリとした違いを示している訳ではない。アメリカのように地域や社会的属性で思想の違いが出る訳でもないし、そもそも政治や社会問題の話は日常生活でタブーのようになっている。人が何を考えているのかよく分からないし、そもそも考えているのかも分からない。

 何が問題なのかあまり共有されていないので、問題が見えているアメリカよりもある意味タチが悪いのではないだろうか。

日本の若者が晒されている危険

 さらに心配なのは、若者への影響だ。テレビや新聞は見ずに情報はネット頼り、というのはアメリカの若者も同じだ。しかしアメリカの若者は英語で情報をとることが出来る。英語圏の国だけでもイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド南アフリカなど色んな国があるし、英語圏ではない国からも、最新の論文や価値ある情報は英語で発表される。国際的な場での議論も英語でされる。不公平な話だが、母国語が英語だというだけで、得られる情報の量と質は格段に上になる。

 政治や社会問題への関心も日本よりは高く、選挙前になると友達や家族で集まって、それぞれの候補者の政策について話あうことも珍しくない。近しい間で政治の話はしたくない人も、自分でリサーチをする。アメリカの大統領選では、同時に州知事、州の法律改正も行われるし、政策によって生活に実際に影響が出る(大麻解禁や、家賃に関わる条例など)。だからみんな意識が高めだ。

 環境や社会問題について話す時も、日本のように「意識高い系」と揶揄される心配もない。

 今回の大統領選では、30歳以下の若者の7割以上(黒人、アジア系で見ると8割以上)がバイデン氏へ投票したことも明らかとなっている。デマに流されないだけでなく、変化を恐れない、むしろ望んでいる若者が多いことが伺える。

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 投票率を見ても、日本では10歳代が32.28%、20歳代が30.96%と発表されているが、今回の大統領選でアメリカの30歳以下の52%-55%が投票に行ったと言うデータが出ている。決して多い数字とは言えないが、日本よりはマシだ。

 さらに、日本では毎日新聞からは「日本は若者ほど「政権支持」「トランプ支持」 世論調査で見る現状維持志向」という記事が出され、東京大学・社会科学研究所のKenneth McElwainさんが出した2018年のデータでも、日本では若い人ほどトランプに対する高感度が高めとなっている。

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 両氏とも、それは若者が右翼化したというよりは、政治についての知識や意見がないから、取り敢えず現状維持・中間の立場をとっているという見方をしている。

さらに、それが良いことだと捉える大人も少なくはない。

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 考えがあってリベラルや左派に対抗するのは良い。ただ、英語で情報をとることが苦手で、保守的な大人に囲まれ、空気を読むことを大事にする日本の若者が、大人でも判別が難しくなっている巧みなデマ情報で真実が分からなくなり、世界から孤立してしまわないか心配だ。

 右派の大人にはヘイトを煽ったり、外国やマイノリティーの人達を見下す人も多い。日本が素晴らしいと思うことは良いが、一方で周りに敵や壁をつくって内へ篭るように誘導すると、パラノイアはどんどん強くなる。日本語が素晴らしいと思うのは良いが、英語で情報がとれないのも、情報社会においては危険だ。左派の日本ダメだ論も行きすぎると若者の萎縮に繋がるかもしれない。

カルトはそうした弱みに漬け込んでくる。

 やはり一番大事なのは、左右などのイデオロギー以前に、データや英語の情報も正しく理解出来る学力と、真実を求める知的好奇心、そして問題意識を揶揄しないということではないだろうか。

 

なぜ人はカルトに惹かれるのか  脱会支援の現場から

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