1985

日本とアメリカについて思うことなど

丁寧な暮らし、田舎の生活というコンテンツ−不安定な世界を生き抜く

f:id:MikeCalico:20201125210659j:plain

 私が住んでいるカリフォルニアのベイエリアシリコンバレー)では、3月から今もずーっと日本より厳しい半ロックダウン状態が続いています。店内のショッピングは人数制限あり、マスクは必須、飲食店の店内での飲食は禁止、オフィスへの出勤も禁止、そんな状態です。大企業は半永久的にリモート可にしたり、大学もオンラインのみです。

 失業してしまった人や収入が減ってしまった人には、(普通の失業保険に加えて)週300ドル支給されていますが、家賃や物価が物凄く高いベイエリアで生活を続けるのはキツいな、と感じている人が多くいます。仕事がまだある人でも、どうせショッピングや飲み食いなどの都会的な生活が出来ないなら、高い家賃を払ってシティーに住んでる意味がないな、という人も増えています。そして、実際に郊外や田舎に引っ越す人が激増しています。

 Zillowというアメリカの大手不動産屋が8月に出した数字では、サンフランシスコの空き家が96%増という凄いことになっています。大手IT企業が集中しているサンタ・クララでも、散歩していると毎日のように引っ越している人を見るし、道にもソファーやキャビネットなどの粗大ゴミ、ご自由にどうぞと雑貨や本など、そこら中にあります。

 ただ、ベイエリアから人が出ていっている今の状況はコロナだけが原因ではなく、家賃の高騰や、ホームレス増加、格差拡大による治安の悪化など、住民の不満は以前から爆発寸前の状態でした。日本でも似たような社会不安があるのではないでしょうか。

都会的で不健康な生活に憧れない若い世代

 40才以下のミレニアム世代やZ世代の間では、環境問題への関心の高さ、また日本で言うところの「社畜」的な生き方に対する疑問などから、ミニマリズムに見られる節約思考、ゴミや温室効果ガスをあまり出さない循環型の自然な生活への回帰、アーリーリタイアへの関心の高さが10年以上前からありました。

 ある意味、ヒッピーがその走りだったと言えるかも知れませんが、世界的に今の若者は健康にも興味が高く、喫煙やドラッグ、飲酒に対する興味は前世代より低めです。アメリカでは知り合いや兄弟がドラッグやエイズで死亡したと言う親世代の人も多く、それは他人事ではないのです。

globe.asahi.com

 今までなら、野良仕事はしないに越したことはない、野菜はスーパーで買えば良いし、新しいマンションに住めば自分で色々修理する必要もない、病気になったら医者に行けば良いし、そっちの方が楽で良いではないか、と言うのが当たり前でした。

 しかし、これからの不安定な世の中を生きていかなければならない若者には、そんな他人任せの「楽な」生活に浸っていて大丈夫なのか?という危機感を持つ人も少なくない。DYIで家の修理をしたり、畑で野菜を育てたり、自分でちゃんと健康管理をしたり、そういったサバイバル技術に興味がある人が意外と多いと思います。

丁寧な暮らし、田舎の生活というコンテンツ

 そんな中、日本の企業はまだ、いかに若者にモノを買ってもらうか、といった議論をしていることがあります。若者の酒離れが、若者の車離れが、など。ニーズが無いところにニーズを作るのが仕事だ!みたいなコトを昔よく言われましたが、一方で、今湧いてきているニーズを無視してないだろうか…?と思うこともたまにあります。

 個人的に今注目しているのは、丁寧な暮らしや、田舎の生活といったコンテンツです。例えば、この李子柒(Liziqi)さんと言う中国の田舎に住む女性のYoutubeチャンネルですが、登録者数がなんと1340万人です。日本で一位のはじめしゃちょーが900万人、ヒカキンで877万人なので、凄い数字だと思います。

youtu.be

 彼女の動画では、野菜の種を撒くところから料理するところまで、長期に渡って撮影された映像が使われ、家の周りの何もかもが彼女の手作りなのが紹介されています。使っているお化粧も手作り。他の動画では、布団作りを綿の栽培から始めたり、パンを焼くにも窯から手作りしています。

 クルミってこうやって木になってるのか、昔の木版ってこう作られてたのか、という学びがあるだけではなく、パートナーによる撮影も高画質で、話し声も少なく、見ているだけで癒されます。

 そしてこちらは、日本人の髙嶋綾也さんがやっているチャンネルです。日本ではあまり需要が無いと思われそうなヴィーガンの料理チャンネルですが、登録者数が236万人います。彼の動画でも、例えばクッキーに使うマカダミアを殻から割るところから紹介し、全ての工程がゆったりと丁寧に映されています。

youtu.be

 これらはオンライン配信のコンテンツとしての成功例ですが、共通する点をあげると

1. 会話が少なく(無く)、静かで落ち着く
2. 必要な箇所は外国語の字幕を付け、国際的なビューワーに届ける。
3. 作業工程を見せたり、異文化が知れるなど、学びがある
4. 映像のクオリティーが高い
5. どこの国か全面に出しすぎず、誰にでも親しみやすい。
6. 「どこかの田舎の生活」「丁寧な生活」「プラントベースの生活」など、ライフスタイルをストーリーとして淡々と提供する

があると言えます。都会の現代社会で失われた要素をいくつも網羅しています。

 日本では豊かな田舎の生活が失われてきていますが、失われてきているからこそ、そこにあった技術やライフスタイルを高画質で記録していくことに、これから価値が出ると思います。さらに内需も減っていきますから、海外の人でもアプローチできるコンテンツだというのは大事だと思います。

 このチャンネルはカナダ人のデイビッド・ブルさんのチャンネルですが、デイビッドさんは日本の木版画を長らく研究しています。ニッチな話題ですが、彼のチャンネルも12万人近くの登録者がいます。彼は英語で丁寧に木版画について説明するだけではなく、自分の人生の話をしたり、twitchでライブ放送などもしていて、国際的にファンが多いです。日本人の多くが見向きもしなかった日本の伝統技を、カナダ人のデイビッドさんがこんな形で保存し、海外に紹介してくれているだけではなく、コンテンツとして人気も出ると示してくれたのは、心強いですね。

youtu.be

田舎暮らしの実態が知りたいというニーズ

 また、田舎暮らしと言えば、日本では人間関係が難しそうとか、虫が多そう、インターネット環境がよくなさそう、教育の質が下がりそう、などのネガティブなイメージ(や実態)から、田舎暮らしに憧れても実際に行動に移す人は多くありません。

 ただ、逆を言えば「したいのに出来ない」という矛盾にビジネスチャンスがあるかもしれません。例えば、ハレとケデザイン舎徳島県の廃校になってしまった小学校を、東京出身の植本修子さんがデザイン事務所、兼ゲストハウス、兼カフェへとして活用して話題になりました。

 以下の動画は、この校舎に住み、カフェでバリスタをしている青木さんのインタビューです(英語と日本語が混ざっています)。

youtu.be

 ハレとケデザイン舎はただ単にゲストハウスやカフェとして成功したというだけではなく、廃校を活用するというビジネスモデル、女性の企業家としての一つの成功モデル、というモデル自体の需要に答えることにも成功していると思います。

 また、山奥ニートというのも話題になっています。『「山奥ニート」やってます』という本も出ていますが、都会の会社で働く生活になじまずニートになってしまった人達が、自分たちの山奥生活自体をコンテンツとして提供したり、家庭菜園で食費を節約しながら、少しの労働で楽しく生活している様子が伺えます。小さいコミュニティーだからこそ、多数決は使わないとか、無理に共同を強いらず、ゆるい繋がりでやるなど、社会のあり方について改めて色々と考えさせられます。

 彼らは、田舎暮らしの実際を知りたい、都会で企業勤め以外の生活を知りたいというニーズに応えてるとも言えます。

色んな生き方があって良い

  ビデオゲームでも、シミュレーションやサバイバル系のゲームがあります。実世界のサバイバルも大変なのに、何でわざわざゲームでもサバイバルが「楽しいコンテンツ」になるんだろう、とたまに思うことがあります。『ウォーキングデッド』というドラマ(コミック)も流行りましたが、あれもゾンビものと思わせておいて、結局は人がどうコミュニティーを形成して成長していくのか、という物語です。

 「企業で出世コース」とは違った意味での挑戦がある人生の方が充実感得られる、というタイプの人も、実は結構いるのではないでしょうか。コロナや異常気象など、不安定な世の中だからこそ、人生を見つめ直して、今まで見えていなかったチャンスが見えてくることもあるかも知れません。

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

 

 

 

カルトに侵食される日本のネット界

f:id:MikeCalico:20201121214155j:plain

 

 新型コロナ、環境問題、社会の分断や格差の問題など、不安定な状態が続きそうな今、日本のネット界でカルトや新興宗教の勢力が勢いを増している。Buzzfeed Japanの記事『日本でも大量拡散したバイデン氏の「不正」めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か』を読んだ人もいるかもしれないが、デマのネタ元を探ってみたところ、Breitbart News、New York Post、The Epoch Times(大紀元時報)、世界日報に行き着くことが多い。

 

拡散されるカルト思想のソース元

 その中で一番まともなのは、New York Postだろう。たまにNew York Timesや、The New Yorkerなどと混同してしまっている人もいるが、New York Timesが新聞なのに対し、New York Postはいわゆるタブロイド誌の類である。日本でいうところの、フライデーやスポーツ紙のような立ち位置で、老舗ではあるが、社会人がまともなソース元として扱うようなペーパーではない。

 次いで、Breitbart News(ブライトバード)。Breitbartは極右派のニュースネットワークとしてかなりの影響力を持っている。2016年の大統領選ではトランプ氏に多額の献金をし、同メディアの元チェアマンだったスティーブ・バノン氏がトランプ陣営のチーフストラテジストに回るなど、熱烈にサポートしたことも知られている。
 単に右翼・保守であるだけではなく、非科学的、中枢がネオナチの白人至上主義者、陰謀論のデマ拡散機(オバマ大統領がイスラム過激派のスパイである、カリフォルニア州の大火災は移民による放火だ、など)として知られている。読者にはいわゆるオルタナ右翼が多く、キリスト教原理主義者だったり、ノアの方舟は実話だ、恐竜は存在しなかった、進化論は嘘だとする層にも支持されている。

 そして今回の大統領選のデマ元として新によく目にしたのがThe Epoch Times(大紀元時報)だ。ニューヨークを拠点にしており、多国語で発信されていることから一見まともな新聞に見えるが、この新聞は法輪功という新興宗教の信者が中枢にいることが知られている。反共産主義、アンチフェミ、反グローバリズム等の立場が保守派と一致することから読者を増やしている。反共産自体は問題無いが、共産を"邪霊"と称し、神や悪魔といったスピリチュアルな言説と政治を混同し、論理的な議論を難しくしている(参照:悪魔が世界を統治している)。

 世界日報統一教と繋がりのあるメディアだとされている。ワシントン・ポストとよく混同されてしまうワシントン・タイムズも、統一教とつながりがあるとされている。これらのメディアも、反共産のような右派に寄り添う記事を出しながら、時々進化論を否定するインテリジェント・デザインなどの宗教的思想を記事に盛り込んでいる。

 これらのメディアの特徴は、「大手のメディアは真実を隠している!」「日本では報じられない真実」というのが論調で、デマでも堂々と真実のように伝えることだ。彼等の目的は「何が本当か分からない…。」という混乱状態を一瞬でも作ることで、人々が陰謀論にハマりやすい状態をつくり、人々の意識に宗教的思想を植えやすくすることだ。

保守とカルトの相性

 厄介なのは、本来であれば新興宗教団体の資金源にされることに反発すべき保守派が、上記のような"ソース元"のデマも利用して、政治的立場を強めようとしていることだ。

 ネトウヨと呼ばれる人や宗教的思想に完全に浸っている人は、実社会では少数かもしれない。しかし、普通の保守派の人は沢山いる。フェミニズムグローバル化、環境問題への取り組みなど、保守派に逆風が吹いている中、温暖化は嘘だよ、LGBTQは神様が望んだ正しいヒトの姿じゃないよ、などという宗教思想に右派は取り込まれやすい。

 元オウム真理教信者の上祐氏がTwitterで「米国の大統領選挙の混乱・対立を見て、オウム真理教を思い出した。」と発言したことが話題になった。オウム真理教の信者も、日本の全人口からしたら極僅かだったが、政界進出を目論み、社会現象、そして悲劇が起きてしまった。

カルト政権を脱したアメリカと、実態が掴めない日本

 アメリカは一先ずバイデン氏率いる民主党が勝利し、ポピュリズム・カルト臭の強かったトランプ政権から交代する形となった。政権交代で分断やQアノン、オルタナ右翼のようなカルトの動きがいきなり解消される訳ではないし、左は左で、アンティーファの問題もある。

 しかし、良くも悪くも特徴のないバイデン氏を添えた中道寄りの民主党政権になったことで、アメリカが一旦体勢を整え、問題に取り組んで行けるだけの体力がまだあることを示したと思う。

 一方日本では同じ政党がずっと政権を握っているし、他の政党もアメリカのハッキリとした違いを示している訳ではない。アメリカのように地域や社会的属性で思想の違いが出る訳でもないし、そもそも政治や社会問題の話は日常生活でタブーのようになっている。人が何を考えているのかよく分からないし、そもそも考えているのかも分からない。

 何が問題なのかあまり共有されていないので、問題が見えているアメリカよりもある意味タチが悪いのではないだろうか。

日本の若者が晒されている危険

 さらに心配なのは、若者への影響だ。テレビや新聞は見ずに情報はネット頼り、というのはアメリカの若者も同じだ。しかしアメリカの若者は英語で情報をとることが出来る。英語圏の国だけでもイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド南アフリカなど色んな国があるし、英語圏ではない国からも、最新の論文や価値ある情報は英語で発表される。国際的な場での議論も英語でされる。不公平な話だが、母国語が英語だというだけで、得られる情報の量と質は格段に上になる。

 政治や社会問題への関心も日本よりは高く、選挙前になると友達や家族で集まって、それぞれの候補者の政策について話あうことも珍しくない。近しい間で政治の話はしたくない人も、自分でリサーチをする。アメリカの大統領選では、同時に州知事、州の法律改正も行われるし、政策によって生活に実際に影響が出る(大麻解禁や、家賃に関わる条例など)。だからみんな意識が高めだ。

 環境や社会問題について話す時も、日本のように「意識高い系」と揶揄される心配もない。

 今回の大統領選では、30歳以下の若者の7割以上(黒人、アジア系で見ると8割以上)がバイデン氏へ投票したことも明らかとなっている。デマに流されないだけでなく、変化を恐れない、むしろ望んでいる若者が多いことが伺える。

画像1

 投票率を見ても、日本では10歳代が32.28%、20歳代が30.96%と発表されているが、今回の大統領選でアメリカの30歳以下の52%-55%が投票に行ったと言うデータが出ている。決して多い数字とは言えないが、日本よりはマシだ。

 さらに、日本では毎日新聞からは「日本は若者ほど「政権支持」「トランプ支持」 世論調査で見る現状維持志向」という記事が出され、東京大学・社会科学研究所のKenneth McElwainさんが出した2018年のデータでも、日本では若い人ほどトランプに対する高感度が高めとなっている。

画像2

 両氏とも、それは若者が右翼化したというよりは、政治についての知識や意見がないから、取り敢えず現状維持・中間の立場をとっているという見方をしている。

さらに、それが良いことだと捉える大人も少なくはない。

画像3

 考えがあってリベラルや左派に対抗するのは良い。ただ、英語で情報をとることが苦手で、保守的な大人に囲まれ、空気を読むことを大事にする日本の若者が、大人でも判別が難しくなっている巧みなデマ情報で真実が分からなくなり、世界から孤立してしまわないか心配だ。

 右派の大人にはヘイトを煽ったり、外国やマイノリティーの人達を見下す人も多い。日本が素晴らしいと思うことは良いが、一方で周りに敵や壁をつくって内へ篭るように誘導すると、パラノイアはどんどん強くなる。日本語が素晴らしいと思うのは良いが、英語で情報がとれないのも、情報社会においては危険だ。左派の日本ダメだ論も行きすぎると若者の萎縮に繋がるかもしれない。

カルトはそうした弱みに漬け込んでくる。

 やはり一番大事なのは、左右などのイデオロギー以前に、データや英語の情報も正しく理解出来る学力と、真実を求める知的好奇心、そして問題意識を揶揄しないということではないだろうか。

 

なぜ人はカルトに惹かれるのか  脱会支援の現場から

なぜ人はカルトに惹かれるのか 脱会支援の現場から

  • 作者:瓜生 崇
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

和食派の父と大腸癌

f:id:MikeCalico:20201120222926j:plain

 父は保守的な人間だ。ヨーロッパには一目置いているようだが、中韓はもちろん、アメリカも嫌い。仕事のためアメリカに何年か住んでいたことがあるし、他の国にも幾度か出張していたから"知らずに言っている"という訳でもない。単にそういう性格なのである。新しいものには必ずケチをつけるし、何かとつけ「だから女は」と文句を言う。

 そんな父は口癖のように、「洋食ばっかだと大腸癌になるぞ。和食が一番体に良いんだ」と言っていた。アメリカに住んでいた時も、日系のスーパーで食料を買い、ハンバーガーなど殆ど食べさせてくれなかった。何より、外食も嫌い。それだけ聞くと、ただ単に彼が健康志向なだけとも思える。しかし違う。だって、飲むのだ、酒を。毎日毎日、浴びるように。煙草だって、本人曰く高校生の時から吸っている。

画像1

大腸癌とグローバリズム

 世の中には色んな病気があるが、「大腸癌」が彼の口癖だった。今思うとそれは、大腸癌といえば「食の欧米化」のイメージがあるからだろう。彼の頭の中では、グローバリズムで欧米や日韓に侵食されていく日本のイメージが、癌に侵食されていく体のイメージと無意識に重なっていたのだろう。

 そんな父も、40歳を過ぎてから色々と病気をするようになった。肝臓も一回やられ、生死を彷徨った。それでも酒は止めない。「医者も、ちょっとぐらいは良いと言っていた」と言う。煙草は電子タバコに変えていたが。

 以前のような体力もなくなり、酒には飲まれやすくなった。そうすると益々愚痴っぽくなる。ある日の晩、食卓で団欒中に私が友達と映画を見に行った話をしていると、「そんな下らない映画ばかり見てるから、日本人がどんどんバカになるんだ!」と怒り出した。酔いと怒りが混ざると止まらない。「日本人はいつか、中国人の奴隷になる!」と不貞腐れ、彼は千鳥足で寝室へと去った。彼の頭の中では、グローバリズムに飲まれてゆく日本のイメージがどんどん強くなっていたのだろう。

"現実"が突然目の前に

 そして私は大学を卒業し、独り立ちすることになった。幼少の頃アメリカに住んでいたこともあり、引越し先はアメリカとなった。見送りの際シラフだった父は「元気で気をつけて」と普通だった。アメリカのことは散々文句は言っていても、英語が使えることの重要性は理解しているし、国際感覚を持つことも心の底から悪いと思ってはいないのだ。

 その後も1年に1回は日本に帰るようにしてるが、父は見る度に小さく大人しくなっているように見えた。そして還暦を迎えた頃、母から連絡が。

「ちょっとお知らせ。検診で、パパに初期の大腸癌が見つかりました。」

 癌自体はまだ小さく、内視鏡で簡単に切除できる程度だと言う。転移も無い。肝臓や腎臓は以前から疲弊しているが、とりあえず病院に定期的に通いながら、今まで通りに生活している。

自分自身を見つめる時

 ひとまず安心と言うところだが、父は落ち込んでいるだろう。あれだけ口酸っぱく警告していた大腸癌が、自分の体の中で増殖してしまったのだから。さらに、それは食の欧米化のせいではなかった。何せ、彼は和食派だ。大好きだった酒と煙草は、「止めなさい」と医者に言われてしまった。

 今、ネット上でのデマ拡散が問題になっている。中国、韓国、右左など、外なる"敵"をつくって問題視し、自分にとって心地よいデマを盲信して自分の"内"が見えなくなっている人達がいる。彼等を見ていると、父の癌のことを思い出してしまう。早期発見、治療で治れば良いのだけれど。

ミケ・カリコにコーヒー代を寄付する↓
https://www.buymeacoffee.com/nemuineko

 

amzn.to

amzn.to