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日本とアメリカについて思うことなど

丁寧な暮らし、田舎の生活というコンテンツ−不安定な世界を生き抜く

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 私が住んでいるカリフォルニアのベイエリアシリコンバレー)では、3月から今もずーっと日本より厳しい半ロックダウン状態が続いています。店内のショッピングは人数制限あり、マスクは必須、飲食店の店内での飲食は禁止、オフィスへの出勤も禁止、そんな状態です。大企業は半永久的にリモート可にしたり、大学もオンラインのみです。

 失業してしまった人や収入が減ってしまった人には、(普通の失業保険に加えて)週300ドル支給されていますが、家賃や物価が物凄く高いベイエリアで生活を続けるのはキツいな、と感じている人が多くいます。仕事がまだある人でも、どうせショッピングや飲み食いなどの都会的な生活が出来ないなら、高い家賃を払ってシティーに住んでる意味がないな、という人も増えています。そして、実際に郊外や田舎に引っ越す人が激増しています。

 Zillowというアメリカの大手不動産屋が8月に出した数字では、サンフランシスコの空き家が96%増という凄いことになっています。大手IT企業が集中しているサンタ・クララでも、散歩していると毎日のように引っ越している人を見るし、道にもソファーやキャビネットなどの粗大ゴミ、ご自由にどうぞと雑貨や本など、そこら中にあります。

 ただ、ベイエリアから人が出ていっている今の状況はコロナだけが原因ではなく、家賃の高騰や、ホームレス増加、格差拡大による治安の悪化など、住民の不満は以前から爆発寸前の状態でした。日本でも似たような社会不安があるのではないでしょうか。

都会的で不健康な生活に憧れない若い世代

 40才以下のミレニアム世代やZ世代の間では、環境問題への関心の高さ、また日本で言うところの「社畜」的な生き方に対する疑問などから、ミニマリズムに見られる節約思考、ゴミや温室効果ガスをあまり出さない循環型の自然な生活への回帰、アーリーリタイアへの関心の高さが10年以上前からありました。

 ある意味、ヒッピーがその走りだったと言えるかも知れませんが、世界的に今の若者は健康にも興味が高く、喫煙やドラッグ、飲酒に対する興味は前世代より低めです。アメリカでは知り合いや兄弟がドラッグやエイズで死亡したと言う親世代の人も多く、それは他人事ではないのです。

globe.asahi.com

 今までなら、野良仕事はしないに越したことはない、野菜はスーパーで買えば良いし、新しいマンションに住めば自分で色々修理する必要もない、病気になったら医者に行けば良いし、そっちの方が楽で良いではないか、と言うのが当たり前でした。

 しかし、これからの不安定な世の中を生きていかなければならない若者には、そんな他人任せの「楽な」生活に浸っていて大丈夫なのか?という危機感を持つ人も少なくない。DYIで家の修理をしたり、畑で野菜を育てたり、自分でちゃんと健康管理をしたり、そういったサバイバル技術に興味がある人が意外と多いと思います。

丁寧な暮らし、田舎の生活というコンテンツ

 そんな中、日本の企業はまだ、いかに若者にモノを買ってもらうか、といった議論をしていることがあります。若者の酒離れが、若者の車離れが、など。ニーズが無いところにニーズを作るのが仕事だ!みたいなコトを昔よく言われましたが、一方で、今湧いてきているニーズを無視してないだろうか…?と思うこともたまにあります。

 個人的に今注目しているのは、丁寧な暮らしや、田舎の生活といったコンテンツです。例えば、この李子柒(Liziqi)さんと言う中国の田舎に住む女性のYoutubeチャンネルですが、登録者数がなんと1340万人です。日本で一位のはじめしゃちょーが900万人、ヒカキンで877万人なので、凄い数字だと思います。

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 彼女の動画では、野菜の種を撒くところから料理するところまで、長期に渡って撮影された映像が使われ、家の周りの何もかもが彼女の手作りなのが紹介されています。使っているお化粧も手作り。他の動画では、布団作りを綿の栽培から始めたり、パンを焼くにも窯から手作りしています。

 クルミってこうやって木になってるのか、昔の木版ってこう作られてたのか、という学びがあるだけではなく、パートナーによる撮影も高画質で、話し声も少なく、見ているだけで癒されます。

 そしてこちらは、日本人の髙嶋綾也さんがやっているチャンネルです。日本ではあまり需要が無いと思われそうなヴィーガンの料理チャンネルですが、登録者数が236万人います。彼の動画でも、例えばクッキーに使うマカダミアを殻から割るところから紹介し、全ての工程がゆったりと丁寧に映されています。

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 これらはオンライン配信のコンテンツとしての成功例ですが、共通する点をあげると

1. 会話が少なく(無く)、静かで落ち着く
2. 必要な箇所は外国語の字幕を付け、国際的なビューワーに届ける。
3. 作業工程を見せたり、異文化が知れるなど、学びがある
4. 映像のクオリティーが高い
5. どこの国か全面に出しすぎず、誰にでも親しみやすい。
6. 「どこかの田舎の生活」「丁寧な生活」「プラントベースの生活」など、ライフスタイルをストーリーとして淡々と提供する

があると言えます。都会の現代社会で失われた要素をいくつも網羅しています。

 日本では豊かな田舎の生活が失われてきていますが、失われてきているからこそ、そこにあった技術やライフスタイルを高画質で記録していくことに、これから価値が出ると思います。さらに内需も減っていきますから、海外の人でもアプローチできるコンテンツだというのは大事だと思います。

 このチャンネルはカナダ人のデイビッド・ブルさんのチャンネルですが、デイビッドさんは日本の木版画を長らく研究しています。ニッチな話題ですが、彼のチャンネルも12万人近くの登録者がいます。彼は英語で丁寧に木版画について説明するだけではなく、自分の人生の話をしたり、twitchでライブ放送などもしていて、国際的にファンが多いです。日本人の多くが見向きもしなかった日本の伝統技を、カナダ人のデイビッドさんがこんな形で保存し、海外に紹介してくれているだけではなく、コンテンツとして人気も出ると示してくれたのは、心強いですね。

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田舎暮らしの実態が知りたいというニーズ

 また、田舎暮らしと言えば、日本では人間関係が難しそうとか、虫が多そう、インターネット環境がよくなさそう、教育の質が下がりそう、などのネガティブなイメージ(や実態)から、田舎暮らしに憧れても実際に行動に移す人は多くありません。

 ただ、逆を言えば「したいのに出来ない」という矛盾にビジネスチャンスがあるかもしれません。例えば、ハレとケデザイン舎徳島県の廃校になってしまった小学校を、東京出身の植本修子さんがデザイン事務所、兼ゲストハウス、兼カフェへとして活用して話題になりました。

 以下の動画は、この校舎に住み、カフェでバリスタをしている青木さんのインタビューです(英語と日本語が混ざっています)。

youtu.be

 ハレとケデザイン舎はただ単にゲストハウスやカフェとして成功したというだけではなく、廃校を活用するというビジネスモデル、女性の企業家としての一つの成功モデル、というモデル自体の需要に答えることにも成功していると思います。

 また、山奥ニートというのも話題になっています。『「山奥ニート」やってます』という本も出ていますが、都会の会社で働く生活になじまずニートになってしまった人達が、自分たちの山奥生活自体をコンテンツとして提供したり、家庭菜園で食費を節約しながら、少しの労働で楽しく生活している様子が伺えます。小さいコミュニティーだからこそ、多数決は使わないとか、無理に共同を強いらず、ゆるい繋がりでやるなど、社会のあり方について改めて色々と考えさせられます。

 彼らは、田舎暮らしの実際を知りたい、都会で企業勤め以外の生活を知りたいというニーズに応えてるとも言えます。

色んな生き方があって良い

  ビデオゲームでも、シミュレーションやサバイバル系のゲームがあります。実世界のサバイバルも大変なのに、何でわざわざゲームでもサバイバルが「楽しいコンテンツ」になるんだろう、とたまに思うことがあります。『ウォーキングデッド』というドラマ(コミック)も流行りましたが、あれもゾンビものと思わせておいて、結局は人がどうコミュニティーを形成して成長していくのか、という物語です。

 「企業で出世コース」とは違った意味での挑戦がある人生の方が充実感得られる、というタイプの人も、実は結構いるのではないでしょうか。コロナや異常気象など、不安定な世の中だからこそ、人生を見つめ直して、今まで見えていなかったチャンスが見えてくることもあるかも知れません。

「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。