1985

日本とアメリカについて思うことなど

和食派の父と大腸癌

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 父は保守的な人間だ。ヨーロッパには一目置いているようだが、中韓はもちろん、アメリカも嫌い。仕事のためアメリカに何年か住んでいたことがあるし、他の国にも幾度か出張していたから"知らずに言っている"という訳でもない。単にそういう性格なのである。新しいものには必ずケチをつけるし、何かとつけ「だから女は」と文句を言う。

 そんな父は口癖のように、「洋食ばっかだと大腸癌になるぞ。和食が一番体に良いんだ」と言っていた。アメリカに住んでいた時も、日系のスーパーで食料を買い、ハンバーガーなど殆ど食べさせてくれなかった。何より、外食も嫌い。それだけ聞くと、ただ単に彼が健康志向なだけとも思える。しかし違う。だって、飲むのだ、酒を。毎日毎日、浴びるように。煙草だって、本人曰く高校生の時から吸っている。

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大腸癌とグローバリズム

 世の中には色んな病気があるが、「大腸癌」が彼の口癖だった。今思うとそれは、大腸癌といえば「食の欧米化」のイメージがあるからだろう。彼の頭の中では、グローバリズムで欧米や日韓に侵食されていく日本のイメージが、癌に侵食されていく体のイメージと無意識に重なっていたのだろう。

 そんな父も、40歳を過ぎてから色々と病気をするようになった。肝臓も一回やられ、生死を彷徨った。それでも酒は止めない。「医者も、ちょっとぐらいは良いと言っていた」と言う。煙草は電子タバコに変えていたが。

 以前のような体力もなくなり、酒には飲まれやすくなった。そうすると益々愚痴っぽくなる。ある日の晩、食卓で団欒中に私が友達と映画を見に行った話をしていると、「そんな下らない映画ばかり見てるから、日本人がどんどんバカになるんだ!」と怒り出した。酔いと怒りが混ざると止まらない。「日本人はいつか、中国人の奴隷になる!」と不貞腐れ、彼は千鳥足で寝室へと去った。彼の頭の中では、グローバリズムに飲まれてゆく日本のイメージがどんどん強くなっていたのだろう。

"現実"が突然目の前に

 そして私は大学を卒業し、独り立ちすることになった。幼少の頃アメリカに住んでいたこともあり、引越し先はアメリカとなった。見送りの際シラフだった父は「元気で気をつけて」と普通だった。アメリカのことは散々文句は言っていても、英語が使えることの重要性は理解しているし、国際感覚を持つことも心の底から悪いと思ってはいないのだ。

 その後も1年に1回は日本に帰るようにしてるが、父は見る度に小さく大人しくなっているように見えた。そして還暦を迎えた頃、母から連絡が。

「ちょっとお知らせ。検診で、パパに初期の大腸癌が見つかりました。」

 癌自体はまだ小さく、内視鏡で簡単に切除できる程度だと言う。転移も無い。肝臓や腎臓は以前から疲弊しているが、とりあえず病院に定期的に通いながら、今まで通りに生活している。

自分自身を見つめる時

 ひとまず安心と言うところだが、父は落ち込んでいるだろう。あれだけ口酸っぱく警告していた大腸癌が、自分の体の中で増殖してしまったのだから。さらに、それは食の欧米化のせいではなかった。何せ、彼は和食派だ。大好きだった酒と煙草は、「止めなさい」と医者に言われてしまった。

 今、ネット上でのデマ拡散が問題になっている。中国、韓国、右左など、外なる"敵"をつくって問題視し、自分にとって心地よいデマを盲信して自分の"内"が見えなくなっている人達がいる。彼等を見ていると、父の癌のことを思い出してしまう。早期発見、治療で治れば良いのだけれど。

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